夏至

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夏至

 高速道路を走る幾つかの光を眺め、視線を戻す。もう随分と空が明るくなっている。一晩中灯っていたタワーの灯りがくすんで見えた。巨大なビルの側面が、海の縁に現れた太陽の光を強烈に反射する。その眩しさに僕が目を伏せると、眼下に新聞配達と思しきバイクが細道を擦り抜けて行くのが見えた。カブ特有のエンジン音が、屋上目指して元気に登って来る。空を仰ぐと、生まれたばかりの青が一面に広がっていた。 キーを回す。ブルルン、と身震いするように車体全体が揺れるのを感じた。この瞬間にいつも、車が目覚まし時計の音に飛び起きている様子を想像してしまう。僕は助手席に置いたカバンの中身を確認してから、シートベルトを締める。昨日充電し忘れたスマートフォンを充電器に繋ぎ、CDを探す。明るめのエレクトロニカを今日の一枚に決めた。暖気が済んだところでクラッチを踏み込み、シフトレバーを1速に入れる。アクセルを踏み込みながらクラッチ弛めて繋いでいく。この始動からスタートまでの流れを、僕は毎日の儀式としてとても大事にしている。 そうっと、優しく。苛々しないで、ゆっくりと。
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