青森

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…て兄貴。 今ごろ泣いてるぞ。 えへ、恐山行かせた。 俺死んでるかも的な。 イタコにも仕込みしちゃった??。 え? イタコはいない? 季節じゃないから? イタコは恐山に常駐してない…の…? 携帯が鳴った。 表示は兄だ。 でも。 僕の携帯は壊れてる。 兄貴にした悪戯を本物に見せるため、僕自身が壊したのに…鳴ってる。 どうしよう。 どうしよう。 僕は知ってた。 飯豊めいが実在しないことを。 飯豊斗茂がシャレで仕立てた地下アイドル。 それが飯豊めい。 男たちの思慕は宙を舞い、ついにはそれはめいを襲ったのだ。 ここで事態は変容した。 めいが死んだのに、斗茂は消えずに仕事を続けているのだ。 ランウェイを歩く斗茂は可憐で、傲慢で、しかもイケてて。 なのに映像には残らないのだ。 ファッション業界がいま味わっている奇妙な現実。 それでも斗茂の仕事はなくならない。 かわいいから。 イケてるから。 存在しない斗茂が働く、存在しない世界。 そう、世界は、どこかでボタンをかけ違えたのだ。 その事実を、僕は弄んだ。 真剣に疑問を持った兄に意味深な偽りを与えて、飯豊愛を茶化した。 咎人は僕で兄じゃない。 でも僕も兄も、軽い気持ちで“死”に触れてしまったのだ。 携帯は鳴り続けている。 取ったら僕にも死が伝染する。 取らない。 取るもんか。 その間も壊してないほうの新しい携帯は、『AIDA』のチャットを表示し続けている。 忙しい? 成果あった? 全然。 ここでホントに会った奴いんのかよ。 ほしいよな。 出会い。 とびきりのやつ。 飯豊愛。
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