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健斗は皮膚がんだった。
もう手術できないほどの末期の状態。
すみれはここに来て初めて、健斗が嘘をついていたのだと知った。
病気を隠したまますみれと別れて一人で病気と闘って来た健斗の苦しみや辛さを思うと、涙が溢れそうになった。
「バチが当たったんだよ。浮気して他の女に走ってすみれを傷付けたから、こうなったんだ。俺は軽い気持ちですみれと付き合ってたし、結婚も本気じゃなかった。もう二度とここには来ないでくれ」
最後まで嘘をつき通そうとする健斗。
死を目前にした自分がすみれに愛を告げても、悲しませるだけだから。
『保と幸せになれよ』と健斗は心で祈った。
「私には分かってる。健斗は私の幸せのために嘘をついてくれてるんでしょ?あなたが望む通りもう二度と会いに来ません。だから最後に一言だけ言わせて。私は今でも健斗を愛してる。…………さようなら」
一年前の別れの時、健斗を愛していたからこそ言えなかった言葉。
愛が消え、情だけを残した心で告げた。
健斗と別れて泣いたことも、遠い思い出。
すみれは保だけを愛する未来を選んだのだ。
「愛してる」は、もう長くは生きられないであろう健斗への別れの嘘だった。
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