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 どこからか、風鈴の音が聞こえた。  浅い眠りの中、薄い雲に閉ざされた意識を、澄んだ音色がナイフのように切り裂く。  ―ち、りぃ……ん……  俺の住んでいる公団住宅は、夏場の決まり事として二十一時を過ぎたら風鈴を片付けなくてはいけない。騒音公害になるとの理由からだ。  でも、俺には解っている。  これは、どこかの部屋が片付け忘れた風鈴の音じゃない。  ―りぃい……ん……  また、風鈴の音が聞こえた。  その途端、全身に鳥肌が立ち背筋にザワザワしたものが這い上がる。  ゴクリと苦いツバを飲み込み、俺は注意深く部屋を見渡した。  脱ぎ散らかしたTシャツに靴下、ハーフパンツが散らばる床。  天井は……実は一番見たくないところなんだけど……よかった、何もいない。どうやら今日は、出会わずに……。 「へっ?」  その時突然、足下のタオルケットが山形に持ち上がると一方の裾がめくれあがった。  中に浮かび上がる、二つの目玉。白濁した膜に覆われ、濁った光彩。 「やべぇ……」  目玉に続いて徐々に輪郭を現したのは、ミミズのような血管が這い回る土気色の塊だ。粘液質の膜に覆われ、てらてらとした嫌らしい質感。     
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