不幸な出来事

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「山口は三年生を送る会の実行委員だった。そして、その山口が居ない…つまりだ!山口の代わりに三年生を送る会の実行委員を募集する!我がクラスの女子達よ!誰かやりたい奴いるかー??」 シーン。 声高に言った横田先生の台詞とは裏腹に、教室は静まり返った。 その沈黙は生徒達の心情を顕著に表している。 そんな無反応の生徒達を見つめ、うんうんと頷く横田先生。 「そうかそうか、お前達は本当に遠慮深い謙虚な人間だな!!良いことだ!」 そして、急にそんな的外れな事を言ったかと思えば、横田先生は笑顔でサムズアップをしてくる。…ウインクつきで…。 何がだ! 私は思わず心中で突っ込んだ。何故だか、クラスみんなの意識ともシンクロしたような気がする。 というか、横田先生のあの顔が非常に腹立つので、親指を関節と逆方向に曲げてもいいだろうか…。 などと、殺戮とした事を考えている私の事など露知らず、横田先生は満面の笑みでポケットに手を突っ込むと、またも高らかに宣言する。 「なら仕方ないな!恥ずかしがり屋のレディなお前等のために俺が公平を期してくじを作ってきたぞー!!」 そう言って白衣のポケットから取り出されたのは数十本のつまようじが入ったケース。 それを見たクラスメイト全員が眉を寄せ、目を細めた微妙な顔をする。 つ、爪楊枝って…せめて割り箸だろ…。 私はまたも他の生徒達と意識がシンクロするのを感じた。 やはり、そんな生徒達の様子に気付かない、呑気な横田先生はにこやかに言う。 「紙でつくるとか面倒だから俺の昼食後にに使うマイ爪楊枝を使って作ったんだ!一本だけ赤いからそれ引いたやつが実行委員なー」 そう言って豪快に笑う横田先生。 マイ爪楊枝って27歳の癖しておっさんかよ。 と私は又もや心中で突っ込みを入れた。 私の心中での失礼な発言など、知る由もない横田先生に催促された生徒達は、渋々ながら立ち上がり順番にくじをひいていく。 さて、わたしの出席番号は九番。女子だと五番目だ。 ……わりと早いな。 そう考えている間にも順番が進んでいき、私はなかなか早い順番で回ってきたくじをそっと引いた。 そして、私は己の目を疑うことになる。 …………な、これは…!? 私は表情を驚愕に染めつつその爪楊枝を見つめる。 目を凝らして良く見ても、その爪楊枝は幻覚ではなく、真っ赤な色をしていた。
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