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よく"あの人は良い人"という言葉を耳にする。
その言葉の真意はきっと"あの人は自分に都合の良い人だ" と言うことだろう。
なんて、冷めたことを考えながら私はコンビニの雑誌売り場に置いてあった【良い人の秘訣!】という巫山戯たタイトルのハウツー本を棚へと戻した。
何とも下らない話だ。
何故人は他人にとって良い人で在ろうとするのか。
私には到底理解できそうもない。
そう思考ながらコンビニの外へと出ると、薄い霜を渡る風が、つらく肌を吹いた。
季節は二月半ばに差し掛かろうとしていた。立春を過ぎ、暦として春を迎えたものの、現代人にはまだまだ真冬と言わしめるくらいの突き刺すような寒さに、思わず眉間にシワを寄せる。
「何が立春だっつの。全然春じゃないじゃん…。」
不意に溢れた台詞は暦への文句か、気温への文句か。
まぁ、とにもかくにも早々に帰宅しなければ凍死しそうな位には、私は寒さに凍えていた。
あ゛ー寒い。
こんな日は何にもせずに炬燵でゴロゴロしながら猫のように丸まりたいところだ。
そんな下らない願望を抱きつつ、帰路へ就く。
すると前方から見知った人物が歩いてくるではないか。
私がその人物に気付き足を止めると、その人物も私に気づいたようで軽く腕をあげて挨拶をしてきた。
「こんにちは。奇遇だね、笠上さん。何処かに出掛けていたの?」
そう人好きのする爽やかな笑顔で言った、少しだけ色素の薄い髪と瞳の少年は好野正善(ヨシノマサヨシ)。
私と同じ学校に通うクラスメイトだ。
よしよしと実に鬱陶しい位これ見よがしに主張している名前通り、彼は"良い人"だ。
それが先程思い浮かべた、誰かにとって都合が良い人かどうかは別としておくが。
しかし、なんでまた折角の休日に、こんなところでクラスメイトと会わねばならないのか。
他人と積極的に関係を持ちたくない私には、中々に不幸な出来事だ。
今年神社でひいたおみくじは凶であったが、早速その効力を発揮してきたか。
やはり、おみくじはちきんと神社に結んでおくべきだった。
なんて又も下らない事を考えていると、目の前の人物が不安そうに此方を覗き込んできた。
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