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「笠上さん?」
その声に私は一気に現実へと引き戻され、慌てて返事をする。
「あぁ、ごめん。ボーッとしてた。こんにちは。」
私はそう言いながらも、然り気無く一歩後ろに退った。
「笠上さんがボーッとしてるって…もしかして風邪でもひいてる?」
私の言葉に少し驚いたように目を丸くさせ、再び顔を覗き込んでくる好野君
私は心中で苦々しい顔をしながらも、表面は努めて無表情で答える。
「そうかもね。だから今から帰るとこ。そして風邪だったらうつるから近寄らないで。」
私はピシャリと冷たく言い、再び好野君と距離を開ける。
現在、私の彼に対する印象は、人のパーソナルスペースを侵してくる不逞の輩である。
そもそも、私はあまり人と関わるのは好きではない。
いや、寧ろ関わりたくないとすら思っている。
関わるにしても必要最低限の事柄に対し、必要最低限の会話のみで十分だ。
要は、買い物に行ったとして、必ずレジに居る店員と関わることになる。
その店員と話す会話は袋の要否や支払いについてのみだろう。
つまりそう言うことだ。
私の目指す人間関係とは、「レジ袋はご利用ですか?」「要りません」といった簡素かつ、希薄な人間関係だ。
こういう思考を持っている時点でお察しとは思うが、私は俗にいうクラスで浮いている人間で、曰く人間嫌いというヤツである。
そして、そういう人物を気にかける心優しい"良い人"が目の前にいる彼だろう。
端から見るととても微笑ましい青春物語の様だが、私にとっては有り難迷惑所の話ではなく、かなり迷惑である。
即刻立ち去って欲しいくらいだ。
しかし、目の前の彼はそんな事に気付かないのか、良い人全開の笑顔で爽やかに言う。
「心配だし、クラスメイトのよしみで家まで送るよ?どっちの方向?」
「結構です!」
爽やかな笑顔で紳士的に提案してきた好野君の申し出を、私は間髪いれずに断ると彼とは反対方向に脱兎のごとく走り出す。
「あっ、ちょっと!」
後方で私を呼び止めようとする声が聞こえたが、聞こえないフリで無視をする。
やれやれ、折角の休日にとんだ災難だな。
なんて心中で溜め息をつきながら、私は今度こそ帰路に就いた。
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