10人が本棚に入れています
本棚に追加
「そういえば、笠上さん。風邪の具合はどう?」
私が一人現実逃避をしていると、目の前の好野くんが心配そうにこちらを覗き込んできた。
私はそれにデジャヴを感じながらも、然り気無く距離をとる。
だから、いちいち近付かないでくれ。
私は内心毒づきつつ口を開く。
「大丈夫。それより、どっちでも良いから私を通してくれないかな?」
「ん?あぁ、ごめん!邪魔だったよね。」
私がジトリとした目で好野君を見上げると、好野君は慌てたように横に逸れて私に道を譲った。
後ろで風見君が「ねぇ!俺も混ぜてよーー」等とほざいているが、無視だ無視。
私は早足で反対側のドアに回って教室へと入り、自分の席へと着いた。
そして、息をつくと入り口の方から男子たちの声が聞こえてくる。
「お前ら氷の女にちょっかいかけてなにやってんのー?」
そうおどけたように言う男子生徒に、好野君が珍しく、眉間に皺を寄せた。
「氷の女?」
「別名雪女。笠上ってスゲー無愛想で無表情で冷たい性格じゃん。だから、ついたアダ名が氷の女。又は雪女。」
聞き返す好野君の表情に気付いていないのか、男子生徒は氷の女の由来を実に愉快そうに語った。
すると更に珍しいことに、好野君が眉をつり上げる。
「何だよそれ」
「なっ、何で怒ってんだ!?」
好野君の固く怒りの籠った声に、驚いて動揺する男子生徒。
好野君が怒るところなんて初めて見たのか、周囲にも動揺が走った。
しかし、好野君はそんな事は気にも留めず、険しい顔のまま、その男子生徒に好野君は詰め寄る。
「笠上さんはそんなこと言われるような人間じゃない。」
「いや、俺に言われても!大体、言い出しっぺは俺じゃねーよ!」
好野君が怒っている事に酷く動揺し、怯えた男子生徒は堪らず声を上げた。
そんな男子生徒を眺めながら私は思う。
まぁ、気持ちはわからないでもないが口は災いの元と言うし、自業自得というやつだ。
というより、日頃怒らない人間が怒ると怖いというのは、どうやら都市伝説では無かったらしい。
現在、好野君からは言葉では言い表せないような、何か恐ろしげなオーラが漂っている。
そんなオーラに当てられた私は、その怒りを直接向けられているわけでもないのに、背筋が寒くなった。
そして、更に思った。
あの男子生徒には、最早合掌する他ない。
私は心の中で彼に手を合わせた。
最初のコメントを投稿しよう!