第1章

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「急に暗くなった。明かりを点けなきゃ」  よく知っているはずで、でも誰のものか分からない声が聞こえる。 「明かりなんてどこにあるの?」 「君が持っているものだよ」  そう返されるものの、自分の手にはものを持っている感触などない。その証拠に、両手ともぷらぷらと振ることができる。 「そんなの持っていないよ?」 「そんなはずはない。よく考えてごらんよ」 「君には何が見えているの?」  疑問しか返すことのできない自分が、非常に愚かな人間に思えてくる。 「君が抱えているものだよ」 「抱えているもの?」  確信を持った相手の言い方に、とうとうオウム返しをしてしまう。 「そう。君も気づいているんだろう。」 「分からないよ。」 「そうか。君はきっと目を閉じているんだな」 「閉じてない。」 「さあ、目を開けてみて」 「閉じてないったら!」 「怖がらないで。僕には君の抱えているものがよく見える。綺麗なものだよ」 「そんなはずない。だって、これは…」  自分の物言いにハッとする。自分が何かを持っていることを、無意識に知っていなければ出てこない言葉だ。 「うーん、ちゃんと目を開けたら、慣れるまでは痛いかも。」 「痛いのは嫌だ。」  率直な意見に、声の主はくすくすと笑う。 「少しの我慢さ。君が見ないと始まらない」 「君には見えているんだろう?だったら君が僕から取ってくれよ」 「そんなことをしたら、君は死んでしまうよ」 「それって、痛い?」 「どうだろう。僕は死んだことがないから分からない。でもきっと、とっても苦しいよ。悲しいよ。死ぬっていうのも間違いかも。君が独りぼっちになってしまうんだ。」 「どうして?」 「君の持っているものを取ってしまったら、死んでしまったら、もう誰にも会えないんだ。好きな人にも、嫌いな人にも。」 「嫌いな人に会わなくて済むのなら、それは苦しくないんじゃないかな?」 「嫌いな人なんて、些末な存在さ。好きな人と会えないのは、辛い。」 「辛いのかな?」 「きっとね。それは君も分かっているだろう?」 「…。」 「君の道を照らしてくれていた人は、今どこにいるんだろうね。」 「…。」 「そろそろ、ちゃんと向き合う時期なんだよ。」 「…」 「僕たちの優しい友達は、きっと、分かってくれるよ。」 「…そうかな。」 「叱ってくれるよ。馬鹿野郎って。」 「叱られるのは怖いよ」 「僕もだよ。だから、まずは目を開いて。」 「…うん。」
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