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「急に暗くなった。明かりを点けなきゃ」
よく知っているはずで、でも誰のものか分からない声が聞こえる。
「明かりなんてどこにあるの?」
「君が持っているものだよ」
そう返されるものの、自分の手にはものを持っている感触などない。その証拠に、両手ともぷらぷらと振ることができる。
「そんなの持っていないよ?」
「そんなはずはない。よく考えてごらんよ」
「君には何が見えているの?」
疑問しか返すことのできない自分が、非常に愚かな人間に思えてくる。
「君が抱えているものだよ」
「抱えているもの?」
確信を持った相手の言い方に、とうとうオウム返しをしてしまう。
「そう。君も気づいているんだろう。」
「分からないよ。」
「そうか。君はきっと目を閉じているんだな」
「閉じてない。」
「さあ、目を開けてみて」
「閉じてないったら!」
「怖がらないで。僕には君の抱えているものがよく見える。綺麗なものだよ」
「そんなはずない。だって、これは…」
自分の物言いにハッとする。自分が何かを持っていることを、無意識に知っていなければ出てこない言葉だ。
「うーん、ちゃんと目を開けたら、慣れるまでは痛いかも。」
「痛いのは嫌だ。」
率直な意見に、声の主はくすくすと笑う。
「少しの我慢さ。君が見ないと始まらない」
「君には見えているんだろう?だったら君が僕から取ってくれよ」
「そんなことをしたら、君は死んでしまうよ」
「それって、痛い?」
「どうだろう。僕は死んだことがないから分からない。でもきっと、とっても苦しいよ。悲しいよ。死ぬっていうのも間違いかも。君が独りぼっちになってしまうんだ。」
「どうして?」
「君の持っているものを取ってしまったら、死んでしまったら、もう誰にも会えないんだ。好きな人にも、嫌いな人にも。」
「嫌いな人に会わなくて済むのなら、それは苦しくないんじゃないかな?」
「嫌いな人なんて、些末な存在さ。好きな人と会えないのは、辛い。」
「辛いのかな?」
「きっとね。それは君も分かっているだろう?」
「…。」
「君の道を照らしてくれていた人は、今どこにいるんだろうね。」
「…。」
「そろそろ、ちゃんと向き合う時期なんだよ。」
「…」
「僕たちの優しい友達は、きっと、分かってくれるよ。」
「…そうかな。」
「叱ってくれるよ。馬鹿野郎って。」
「叱られるのは怖いよ」
「僕もだよ。だから、まずは目を開いて。」
「…うん。」
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