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「私だよ」
男の表情は上手い事を言って得意気という風でもなく、真面目そのものだった。
「変な事を言うもんだ。だって、あんた生きているよ! ほら!」
男はふっと漏らすように笑ったんだ。
「私は亡霊でね」
「こりゃあ変わった人間、いや、亡霊に会ったもんだ」
「その通り。私は変人なんだよ。しかし普段ならこういう物言いは自分にしかしないのだが、私はお前に懐いたらしい」
「またまた変な事を言いなさる。あんたは自分と会話をすると?」
「するさ。他に相手がいないものでね」
あっしはその変な魔術師に自分が行商人だと話したんだ。
「それなら雨は困るだろう。なに、この木から離れさえすれば雨は止む。でもこの木が悪いんじゃあないさ。恵みの雨だからね」
「この木に何かあるんですかぃ?」
何もない土地にあった、たった一つの物。蒔いて十日で立派な木になる雨の種、と男が言うんだ。
「そりゃあ、有り難がられるだろうにな」
あっしの勘は当たってた。どこで手に入れたんだと聞くと男は眉間に皺を寄せて話し出した。
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