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「種が芽を出してからはずっと雨が降る。霧雨、時雨、深雨と色々ね。雨を求めて蒔いた種だけれど、数日も降り続けば貧相な心の人間は雨が鬱陶しくなってくるんだ」
「そりゃ降り続いたら困るだろう」
「そうだけれど、種は求められて芽を出したんだ。鬱陶しがるなんて酷いじゃないか。花も咲けずに伐られるんだ」
それもそうかと思った。あっしは人間に寄り添いその温かさで生きている人間でしてね、自然側にがっつり傾いた発言には同意しないのが普通なんだが、何でかこの男の言葉には頷けた。
人間は雨がいらなくなるとその木を切り倒し、雨が降らないように焼いてしまうのだと言った。その灰の中にまた種がある。
あっしは、これはいい商品になると思ったね。
「それにしても酷いや。結局は村ごと捨てちまったなんて。あっしなら必ずその種を必要な人の元へ届けるんだがねぇ」
「この村は関係ないよ。私が、この廃村なら二十日くらい降り続いても人に迷惑が掛からないと思って選んだだけだからね」
男はそう言って木の肌を愛おしむように撫でた。
「私が仕事で行った村にあった種なんだ。あまりに種が不憫で、私は雨の種に術をかけた。切り倒されないよう強くなれ。二十日目に自分の足で歩きだせ、と」
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