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――シュートを教えてください。  放課後、楓を前にした藤堂は突然頭を下げた。  驚きつつもよく聞けば、何でもバスケットボールにおけるシュートの指導を頼みたいらしい。  他の先輩でもなく、男子の部員でもなく、なぜ私なのか。そう尋ねた。 ――誰よりも、お前のシュートが一番きれいだった。  バスケを始めたのは高校に入ってからだという。そんな彼の目を驚かせるほど、楓のシュートは美しかったという。  なぜ楓なのかはいい、でも入部後からずっとサボり続けていた藤堂が、急にやる気になったのか、そこが気になった。 ――この間、後輩に会った。  そいつはすごいやつでさ、と彼ははにかみながら話し始めた。  そいつは昔からの幼馴染なんだが、これと決めたら譲らないやつだった。  自転車の練習のときなんかすごいんだぜ、何度転んでも立ち上がって、もう一回、もう一回ってな。  それがまたすごくかっこいいんだ。  そのとき俺、決めたんだ。俺は、こいつよりもかっこいいやつでいようって。  後輩に会ったときについ、言っちまったんだ。高校生になったら俺がレギュラーでバスケやってるところ見せてやるって。  あいつには、かっこ悪いとこ見せられないから、今から死に物狂いでレギュラー勝ち取る。  だからさ、 ――俺にシュートを教えてください。  楓は了承した。  シュートだけでなく、ドリブルも、ボールを持った時の動き方も。  プロの動きを見てみなさい。素人はまず、それができるようになればいいのよ。  動画サイトを利用してプロのプレーを見せた。  藤堂に半年も必要なかった。  4ヶ月もあれば彼はレギュラーを勝ち取っていた。  それから先も楓との特訓は続いた。  学年が変わるまでは。
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