3.恋慕という狂気

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3.恋慕という狂気

 なんだか、まぶしい…… 「う……ん……」  気だるい身体を起こし、ただよってきた塩素臭に、身をひるがえします。 「ここはっ……プールっ……」  そう、体育館横のプール。  見慣れた風景なのに、妙に胸がざわめくのは、なぜでしょうか? 「ミーツバっち!」 「ひゃっ!!」 「あははっ、ビビりすぎー! こんなとこでどーしたの?」  プールサイドにひょっこり現れたのは、人懐っこい栗毛の教え子です。  座り込むわたしの姿は、それはそれは不思議に思えたことでしょう。  視線を泳がせ、フェンスの向こうに、茜に濡れた校舎を見いだします。 「あ……校内の戸締まり中に、貧血で……」  我ながら、バカげた言い訳だと思いました。  とはいえ、〝覚えていない〟と言うわけにもゆかず。  幸い、歩み寄ってくるのは、屈託のない笑顔です。
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