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「ちが……わたしは、三葉……」
「ちがわないよ。世界が忘れても、おれが覚えてる。三葉先生……アナタはふぅちゃんで、二葉ちゃんです」
1歩踏み込まれ、慌てて2歩、3歩。
「待って、むつ……!」
「それはちがう」
「きゃっ!」
4歩目で、もつれる足。
大きくのけ反った一瞬で、鬼ごっこは決着しました。
「は、なして、ください……」
「やだ。今度は、おれがアナタを抱きしめるの」
「わたしは、あなたを抱きしめたことなんて、ない……」
「ウソ」
「ウソじゃない! 教師と教え子なのよ! わたしは、あなたのふぅちゃんじゃないわ!」
豹変した六月くん。
宛先ちがいの重い愛情。
勢いに任せて、大事な大事な教え子を、わたしは突き飛ばしてしまいました。
「拒否……ふぅちゃんが、おれを……?」
しまった、と悔いるころには、なにもかもが手遅れで。
「……っふふ。はは……あはははははっ! 可笑しい、奇怪しい、オカシイ! 凍っちゃうくらいに、愉しいよ!」
……夜色の前髪を掻き上げて、笑って、嗤いつくして。
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