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恐怖に凍える自分を、大きく裂けたブラウスごと、苦しいほどに抱きしめます。
「痛みに恐怖し、死を厭う……ヒトは、ことごとく無知だ。死とは、未知への恐怖です」
とうとう、青年の影に捕まってしまいました。
しゃがみ込む、衣ずれの音。
こわごわと見上げ、肩が跳ねます。
蒼と金の瞳が、左右で違う虹彩が、血色の逆光のなか、妖しげに輝いていたからです。
「未知を、教えましょう。そうすれば、アナタの涙も、止まるはずです」
「……厶リ、です……死んだ人間は、笑わないわ……笑えない、のよ……!」
「不適です」
絞り出した言葉は、一蹴されます。まるで、ゴミ箱に捨てられるように。
「おれが教えるのは未知であって、死そのものではありません」
「どういう、こと……?」
「それを言ったところで、理解できるでしょうか。もう限界でしょ?」
「うっ、くぁ……!」
ぐらつく意識。
なんとか保っていましたが、青年の言うとおり、限界のようです。
「い、たいッ……!」
当然です。ブラウスを裂かれて、横腹を裂かれて、平然としている人間なんて、いるはずがありません。
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