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鈴の音が止まりました。青年が歩みを止めたのです。
ぼんやりとあたりを見回して、ようやく思い出します。
ここが、高校という学び舎であったこと。
とりわけ、まだ少し肌寒い、水無月のプールサイドであったことを。
「……スキ」
わたしにできることは、おぼろげな意識のまま、身をゆだねるだけ。
「もう、離れないから……」
青年は、女のわたしから見ても綺麗な顔を、おもむろに近づけます。
そうして形のいい唇で、わたしの下唇を、かすめるのです。
「ずっといっしょだよ――ふぅちゃん」
それが青年の、最後の言葉でした。
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