0.バッドエンド

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 ひっくり返る天地。  パシャン、と水面に叩きつけられる感触と、身体が沈んでゆく感覚。  鼻につく、次亜塩素酸ナトリウムのにおい。  せめて、と1回でも呼吸することさえ、青年は許してはくれませんでした。  先ほどとは比べものにならないくらいに、わたしの唇に、唇を押しつけて。  細かな水泡のひと粒さえ入ることを許さない抱擁は、まるで、ぐずる子供のようでした。  かろうじてこじ開けた瞳で、血濡れの空へと手を伸ばし……揺らぐ水面を抜けるより先に、華奢な指で、絡めとられてしまいました。  なにもない蒼の世界で、夜色の髪だけが、わたしの頬をくすぐって……なんだか無性に、安堵してしまったのです。   イタミも、クルシミも、   なにも、わからない。   だれにもジャマされず、   ただただ、   しずんでゆくだけ。   ふかく、   ふかく、   ふたりだけで。  
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