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翌朝、私が目を覚ますと、グレースも目覚めた。大人しく抱っこされる。床におろすとまた走り始める。止まらない。放っておくといつまでも走っている。抱っこすると、大人しくなる。膝に乗せると長く伸びて腹を出して寝る。
母が抱っこしても、父が抱っこしても大人しくはなるが、すぐに私の方に来て膝に乗り直す。
グレースはあろうことか、私と一緒のベッドか、私の膝の上でしか眠らなくなってしまったのだ。驚異的な懐き方だった。ラグドールは人懐こいと知ってはいたが、こんなに懐くとは思いもしなかった。お金を出して買った猫の威力を思い知った。
これは私にとって大変都合がよかった。何せ私は絶賛無職のひきこもり中であったし、何時間でもグレースを乗せていられた。失業保険は半年間出ることになっていたので、猫と一緒にだらだらするのに、何の不都合もなかった。
グレースは私の膝の上で長くなって腹を出して寝る。
グレースは放っておくと四十分ぐらい私の下唇をザリザリと舐めている。
グレースはたまに私の下唇を噛んで穴をあける。
グレースは私の風呂にもトイレにも付いてくる。
グレースは走り回って、私の姿を見失うとこの世の終わりのように鳴く。
グレースは、名前を呼ぶと走ってくる。
貧相な灰色の仔猫と暮らすうちに、私は少しずつ修復されていった。庭に出るようになり、近所のスーパーに買い物に行くようになり、面接に行くようになった。
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