【1】交代する人格

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「新明さんは? 今、話せるかな?」 「駄目です。あの男は時々……真広様に如何わしいことをなさる、昨日も……ああ、おいたわしい。いけません、いけません。朝からあの男はいけません。邪悪で禍々しい存在です」  ダメかと溜息をつく。顕彰さんは新明さんが嫌いだった。如何わしいことをするのは、捧もハルくんも同じだったが、顕彰さんはなぜか新明さんの行為だけを責めた。確かに新明さんのあれには多少問題があるのだが。 「ああ、小さなお口と丸い鼻先が赤子のようで、無垢で純粋で可愛らしい。唇は桜色で艶があってでき立ての水饅頭のようですし、瞳は吸い込まれそうなほど艶めいた漆黒、ああ、私めが映っているのが罪なくらいです」  差し出されたヨーグルトを一匙舐めた。甘さがちょうどよかった。 「靖子さんならいい?」 「ああ、真広様どうして……」  顕彰さんはううむとひと呻りすると黙り込んだ。僕と離れるのが嫌なのだ。けれど、靖子さんに人格を交代しなければならない理由も理解している。頭を振ってもうしばらく一緒にいたいと目で訴えてくる。顕彰さんの瞳が潤んで揺れた。
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