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衣擦れの音と恋人の匂いで目が覚めた。頬に太陽の光が当たっているのが分かる。柔らかな上掛けの感触と夏草のような匂いが心地よく、体は目覚めるのを拒んでいた。まだ眠っていたい。瞼を閉じたままじっとしていると、ベッドの中で後ろからぎゅっと絞るように抱き締められた。耳元で「まひろ」と名前を呼ばれる。その仕草と呼び方で捧だとすぐに分かった。
「おい、おまえ昨日は俺とする約束だっただろ?」
捧は不満そうに声を洩らした。耳元に熱い吐息が掛かる。長い両脚で腰から下を絡め取られ、胸の前で両手を組まれた。そのままぐっと力強く羽交い絞めにされ、僕はベッドの上で完全に動けなくなった。
「だって……捧が飲みすぎるから……」
「俺が?」
「うん。飲みすぎてリビングのソファーの上で寝ちゃったんだよ。僕がシャワーから出てきたら、新明さんになってた」
「あいつか……油断も隙もねぇな。むかつく」
「新明さんも同じこと、言ってた」
「はあ?」
不意に耳朶を引っ張られた。むかつくと囁いた唇はそこへ優しく口づけた。言葉は乱暴なのに恋人のキスはいつも甘い。
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