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「――ああ、真広様。おはようございます。このように朝のご挨拶ができるとは、なんという僥倖でしょう。今日も朝から見目麗しいお顔で、私めも身が引き締まる思いでございます。ああ、そんな……いけません。逃げないでここにいらして下さい。私めが真広さまの体を清めさせて頂きます。可愛らしいお顔を拭き、白く綺麗に並んだ歯を心を込めて磨かせて頂きます」
慌ててベッドから起き上がろうとすると、ぎゅうっと痛いくらいに抱き締められ、大事な壺でも磨くように背中を撫でられた。
「もう……なんで朝からケンショーさんなんだよぉ。捧、いい加減にしろ!」
「おかしな声を出されて、どうかされましたか? もしや体の調子が……いけません、いけません。どう致しましょう。病院へ行かなくては――ああ、お顔の色が芳しくありません。どう致しましょう、ああ、どうすれば――」
「違うから。元気だから。大丈夫だから!」
「私めは、私めは、真広様がどうかされたら生きていけません。ああ、想像しただけで……」
顕彰さんはベッドから飛び出ると、天を仰いでその場に崩れ落ちた。どうすればどうすればと呟きながら、頭を抱え込んでフローリングに埋まりそうになっている。
「もう、朝からどうしたら……捧、ホントに許さないから。今日だって凄く忙しいのに」
僕はこの世の終わりだと項垂れている顕彰さんを起こして、リビングのソファーに座らせた。背中を撫でて落ち着かせる。とりあえず出掛ける準備をしようとタオルを持って洗面所へ行くと、突然、青白い顔をした顕彰さんに羽交い絞めされて驚いた。
「い、いつの間に……」
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