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「あーんとなさって下さい。もう少し……ああ、いいです。綺麗になりました」
歯の後は顔を柔らかい布で拭かれた。薔薇のようないい匂いがする。
「顔は……洗いたい」
「いけません。真広様は皮膚が薄く、敏感肌ですから、お顔の油分を必要以上に取ってはいけません。ごしごし洗うなんてもってのほか。こうやって乳液を含ませた布で拭くのが一番いいのです」
顕彰さんは満足そうに呟くと、ふわふわのコットンに乳液を取って僕の頬を優しく拭った。
「今日は朝から浮気調査があるから、早めに捧に戻してね。靖子さんでもいいから。靖子さーん、聞こえる?」
「ああ、お可愛らしい……艶のある黒髪、透き通るような色白の肌、このつぶらな瞳はどうでしょう。磨き上げた黒曜石のようです。ああ、本当にお可愛らしい」
顕彰さんは目をキラキラさせながら甲斐甲斐しく僕の世話をしている。この世の春だと言わんばかりに胸をときめかせ、幸せそうに賛辞の言葉を繰り返した。
「真広様、ああ、地上に舞い降りた天使――」
「ああ、間に合うかな……」
揺れる膝の上で僕は大きく溜息をついた。
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