運命の分かれ道

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運命の分かれ道

  古藤仁志(ことう ひとし)は自動販売機のコイン投入口に百円玉を入れて、ボタンを押した。  炭酸入りのビタミンドリンクが音をたてて落ちる。  ひろいあげて蓋をひねった。プシュっという音ともに、ペットボトルの中で膨脹した冷たいガスが手にかかった。  自宅付近の公園の入り口にある小さな自販機だ。仁志はいつも大学の帰りに、ここで飲み物を買ってベンチで一服する。ベンチがあいていなければ、なんとなく植え込みの前をうろうろしながら、しばらく過ごして部屋に帰る。  昼時の公園はすいていた。仁志は木曜日は三限までしか大学の授業をとっていない。一年と二年で真面目に必修単位をとってきたおかげで、三年生の今は、かなり時間に余裕があった。  仁志は居酒屋でのコンパみたいなノリは苦手で、カラオケも下手くそだ。相変わらず彼女はできないが、ゼミには気のおけない友達が数人いる。去年の二泊三日のフィールドワークも、部活の合宿ような雰囲気でそれなりに楽しんだ。  木漏れ日の下に立って公園を見渡した。百坪ほどの広さで、日当たりのいい場所には、登り口がいくつもついた山形の滑り台と、砂場とブランコがあった。少し離れた木陰にベンチが二つと水飲み場があり、こちらはヤマボウシの並木の影になっていて、いつもひっそりとしていた。仁志は日差しを避けてベンチのほうへ歩いて行った。
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