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キンスキーの四肢が伸び、変化に追従できなくなったズボンが破れていく。靴は張り裂け、鋭い爪を持つ野獣の足がはみ出ていた。めきめきと顔の骨格を変化させつつ、キンスキーは喉を振り絞った。もう、まともに発音できない。絶叫が遠吠えに変わる。
「と…『特権者』の…攻撃だ…。ろ、朗読が始まった。早く、通報ウォオオオオオオオオン!!!」
「お兄ちゃあああん!」
変り果てた兄は、妹を認識する知力を失っていた。アカシアは全速力で迫りくる兄を振り切ろうをした。プリーツスカートが邪魔で速く走れない。アカシアはポケットをまさぐった。文庫本を投げ捨て、底から携帯を取り出す。こんな事になるなら、人狼小説なんか持ってくるんじゃなかった。だいたい、プクシアの森に特権者の攻撃が及ぶなんて聞いてない。
「特権者は想像力を咀嚼し、凌駕する。うかつな事を言うんじゃないぞ。フォーマルハウト星系では、ゾンビの大群が沸いたそうだ」
「三百万光年も先の話でしょ。つか、惑星ポールカラスってヘリウム鉱山でしょう。鉱夫の中に惑星全域に影響力を及ぼすほどのホラー作家が居たんですか?」
「一家の主が、家族の安全を慮って手に入れた情報だ。間違いはない」
「僕は朗読されるほど間抜けじゃありませんよ」
「朗読って?お兄ちゃん」
「特権者は、気まぐれに人間の書物を読み取って、歪めた内容を現実に反映させるんだ。絨毯が空を飛んだり、新居がケーキに化けたりは序の口さ」
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