23人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
涙混じりのキスが私の胸を締め付ける。
痛い。
ジンと痛い。
彼は両手で私の頬を包み、キスを繰り返した。ついばまれ、深くなっていく。
彼の胸元に手をやり、服を握りしめた。
長くそうしていたけれど、ゆっくりと彼は離れる。私の両肩をつかみ、胸元から手を離させるためか、肩を押した。私は恐る恐るその通りにした。
抱かれたい。けれど余計に辛くなる。
彼がこれ以上求めて来ないならば、私も流されることも求めることもない。
自分からは、求められない。
「好きだったの。こんな風になるくらい」
ただそれだけは伝えたかった。好きだと、あの頃言えなかった言葉だけでも。
「...俺もだよ」
彼はスッと立ち、背を向けた。
私のどこがだめだった?
まだこうやって気遣ってくれるのに、なぜだめだったの。
「なん、で...」
嗚咽のように小さく漏れた声は、上手く言葉にならなかった。
寝室を出た彼は、どうやら外に出掛けたようだった。玄関の音がして、たぶん、私が身支度しやすいようにしてくれたのだろう。
その行為に甘えるように、私はシャワーを借り、着物を着た。
化粧品は持ってきていないので、すっぴんで帰るしかなかった。前髪を掻き寄せて眉毛を隠す。
そして、部屋を出るために、部屋のカギを探し始めた頃に彼は戻ってきた。なんというタイミング。見計らったとしても鋭すぎる。
いや、どういうつもりだったのか真実はわからないけれど。
「駅前で朝食でもどうかな」
もうこれが最後なのだろう。
私はつい寂しくて、こくりと頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!