5月の水辺

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駅前の商業用ビルの1階に、オシャレなカフェがあった。目の前には小さな人工の緑地と、やさしく流れる水の演出。都会らしい、大がかりな空間のつくり方だ。 クロックムッシュとコーヒーを頼み、窓際で都会のオアシスを眺めていた。 向かいには彼。 コーヒーと、サンドイッチ。 テーブルにタブレットを置いて、今日のニュース記事を読んでいるらしかった。 昔と同じ。ここに来るときは決まってそう。 あの頃と同じ光景がそこにあって、彼女に戻ったような感覚だった。 モーニングを早く終わらせまいと、私はクロックムッシュが冷めてしまうのも厭わずに、ゆっくりと口にしていた。 特に会話はない。 私もスマホを弄り、昨日のことを心配した友人の連絡にどう返すか悩んでいた。 こうなったら彼女に会ってから帰ろうか。 いや、もう帰りたい。 私の居場所はもうあそこだから、答えは出ている。相談することなど何もない。 また未練を残して、ここを去るのだ。 彼に見送られて、私は改札に入る。 振り返ればまだそこにいて、軽く手を掲げてくれた。 私も小さく手を振った。 手につられて袖が揺れる。 これを人は、恋しいと喩えたのだった―――。 『5月の水辺』-完-
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