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たとう紙から光沢のある青い着物を出した。
帯には春らしい桃色の艶やかなものを。
帯締めはキリッとしたモスグリーン。これに花模様の帯留めをつけよう。
冬と春の入り交じる3月に着たいコーディネートだったけれど、この様子ならまだ大丈夫だろう。
これを着て、友達の出演するコンサートに行く。彼女はバイオリン奏者。今回は小規模だが、弦楽四重奏のコンサートをするのだと嬉しそうに招待してくれた。
彼女には、そう、チューリップの花束がいいかもしれない。バイオリンと、まっすぐな性格の彼女には、白のチューリップがよく似合う。
明日の昼過ぎに電車に乗って、都会に行く。かつて住んでいた、あの賑やかな街へ。田舎者になったと笑われないように、胸だけは張っていこう。
あちらはもう暑いだろうか。パソコンで天気予報を見る。曇り。それほど気温は高くないようだ。首もとに巻けるように、薄手のストールだけ持っていこう。
会場の場所は、地下鉄の駅からすぐ。乗り継ぎで歩いたとしても、外を歩くことはあまりないだろう。花束も、構内のあそこで買えばいい。
あの街を思い出す度に、彼のことが脳裏にちらついた。
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