5月の水辺

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私の住む街は田舎だ。田園に家がポツポツとある、散居村。古い家で、私は父と二人暮らしをしている。近くにスーパーもあるし、ショッピングモールだって車で行けばすぐ。 車社会だから、電車は1時間に1本。バスも1時間や2時間毎。そんな不便なローカル線に揺られて隣街まで行ってから、新幹線に乗って目的地を目指す。 ちらちらと、着物姿の私を見る人はいるが、都会についた頃には誰もこちらを気にしてはいなかった。 ほどほどに夕方が近づいている頃。帰宅ラッシュに差し掛かっていた。会場近くの駅に行く電車に乗りこむ。 着物を着て箔がついたのか、譲ってくれる人がいて、ありがとうございますと座らせてもらった。 車窓から見える街並みをぼんやりと眺めていた。 ここには大学で4年。社会人になって5年住んでいた。 母が病気で亡くなったことをきっかけに、一人残された父の元に戻った。きょうだいはいない。祖父母も母方の祖母を残すのみで、祖母もいつ他界するかわからない。住む場所は隣の県で、叔母さんが面倒を見ている。たまに遊びに行けば「いつ結婚するのか」と聞かれ、最近は億劫だけれど、まだそこまでボケてはいなかったので、今まで会えなかった分、よく行くようにはしている。
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