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問題は父だ。母を溺愛しすぎていて、あの歳になっても、母のことは大事らしい。勤めていた会社も定年を迎えたらやる気もなくなったのか嘱託での勤務も断って家にいるようになった。
最初の頃は食事もまともにしなくて、作ってもあまりおいしそうに食べてくれない。私だって下手ではないけれど、良くできた母だったから、何かと比べられているような気がして、こちらも苛立ってしまうときがあった。
今は私の仕事の話だって聞いてくれるようになった。嫁にはあまり行かせたくないのか、祖母のように聞いてはこない。
戻った理由は、それだけではないのだけど、あのとき帰る場所があったのは本当にありがたかった。母が亡くなる前に帰れていれば、母ももうちょっと楽に闘病できたかもしれないと思うと、父に対しても後ろめたい気持ちがあった。
この街は、私にとって、恋の街だ。勉強や仕事にも励んだけれど、地元にいたときには一切なかった恋というものを、ここで知り、大人になった。
出会いは多かった。
彼と会ったのも、彼と恋をしたのも、この街だった。
この2年、ピアニストの彼に、私はひどく心を奪われていた。
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