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「じゃあ戻ってきたわけではないんだ?」
「もちろんです」
「あちらでは何を?」
仕事のことだろう。
「同じく、高校で非常勤しています。たまにレストランで演奏もして」
「一人で?」
私は黙った。どう返せばいいのだろう。強がって、デュエットしているとでも言えばいいのか。それとも寂しい女を演じればいいのか。
沈黙から、一人ではないと受け取ったらしい。
「上手くやっているならそれでいい」
日本酒をグッとあおった彼の横顔を見つめてしまう。
おちょこがテーブルに置かれて、私は慌てて徳利を傾けた。
胸が痛い。
好きだと言って泣きついてしまいたい。
あなたと一緒にいたいと訴えてしまいたい。
それを抑えていると、手がまた震える。
徳利を持つ手に彼はそっと重ねるように触れ、それで逆に注ぎ終えるタイミングを見失って、結果彼が溢れそうになるのを止めた。
「ごめんなさい」
「ありがとう」
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