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しばらくしてからお店を出て、花束を受け取る。
白いチューリップと、白の芍薬。黄色い提灯のような花がかわいらしいサンダーソニアと毬のようなかわいらしい黄緑のビバーナムが合間を埋めて、大きな赤っぽい葉に包まれた立派なラウンドタイプの花束だった。
もうチューリップはこれでおしまいで本数も少なかったために、芍薬で豪華にしてくれたらしい。
彼がそれを手に、会場へとエレベーターに乗る。
開場時間は間もなく。数人がエレベーターに乗り込んできて、あっという間に人で埋め尽くされた。奥に追いやられる私たち。
ふと、彼の背中を近くに感じる。花束を掲げて、ちょっぴりおかしかった。右腕が目の前にあって、ふんわりと彼のオリエンタルな香水が花の香りと共に鼻孔をくすぐる。
勝手に、彼に守られているような感覚に陥る。
すぐにホールの階に着く。
受付を済ませて、スタッフに名を告げ、控え室に通してもらう。もはやそこそこに名の知れた彼を疑う人もいなかったし、招待客である私も通してくれた。
弦楽器の音が聞こえてきた。
「失礼します」
そう告げて中に入る。
「ああ! 待ってたよ! 来てくれてありがとう! 先輩と一緒だったのね」
「やあ、これ俺たちから」
「すてきな花束! ありがとうございます」
彼女は私をちらりと見た。
私は頷いて返す。
音がやんで、他のメンバーもこちらを見ていた。
「先輩来てくれたんすね」
他のメンバーは皆男性。同じ大学出身者。私よりは歳上だけれど、全員彼の後輩だ。
彼はピアノだから学校ではあまり関わりなかったのだけれど、同じマンションに住んでいたから自然と仲良くなったらしい。
世間は狭くて、気づけば友達もいつのまにかこうして先輩と繋がっていた。
「俺たちには差し入れないんですか」
「男にプレゼントなんてするわけないだろ。チケット代落としてやっただけありがたく思え」
先輩は招待客じゃなくて、自ら買って来たわけか。たぶん招待券は断ったんだろうな。
「じゃ、頑張れよ」
「ありがとうございます。頑張ります」
私も友達に、じゃあねと告げた。何か言いたげだったが、大丈夫とだけ言って、私は笑ってその場を去った。
ホールの入り口付近についた頃に、私と先輩はそれぞれ知り合いに声をかけられて、バラバラになった。むしろ、あえて離れた。
まさかこのまま一緒に並んで聞くわけにもいくまい。
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