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私の虫けらを見るような視線は完璧だったはずなのにッ。
むしろ私が憐れまれてしまいました。
「お腹は至って正常ですよッ。そうじゃありません。大変な事件が起こったんですよッ」
「事件? 何? 教えてくれよ?」
「え? 面倒臭いので、厭です」
「……ああ、……じゃあ、お元気で……」
完全に帰ろうとする左藤君。
「って、ちょっと待ったですよッ。引き際、潔すぎですッ。もっと喰い付いてくれないとッ。何だか、私が可哀想な子、みたいじゃないですかッ。……可哀想な子ッ。……はッ、つまり悲劇のヒロインな私?」
「違うッ」
ああ。心地いいツッコミでした。
この見事なツッコミが、何の取り柄もない左藤君の唯一の特技なのです。
「……水無瀬、今、心で何かすごい失礼なこと思わなかった?」
「左藤君。人間の心はどこまでも自由なのですよ」
私、ニッコリ笑います。
美少女スマイルです。
「……そのせいで、今、僕の心が不自由だよ……」
左藤君が悲しそうに笑っていました。
「で? 事件ってのは?」
談話室の椅子に腰かけて、左藤君は言いました。
仕方ありませんと、私は咳払いを1つ。
三度目の正直という諺がありますが、三度聞かれては答えぬワケにはいきません。
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