第1章

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 そこで、私は、お父さんがお母さんをたたいているのを、見た。  私は、戸の端を掴んで、その光景をただただ見ていた。本当は、走って玄関に行き、お母さんの前に立って守りたかった。ケンカは止めてって、叩くのはダメだって。そう言いたかった。でも、できなかった。ただ怖くて。扉の端を掴んでいないと、立ってることすら出来なくなりそうだった。  そのときの私には、そこにいるお父さんがお父さんじゃないように見えた。まるで、悪い夢の中に出てくる怪物のような……  気が付くと私は、そのまま泣き出していた。その後のことは、あざができた顔で微笑みながら慰めてくれるお母さんの顔だけを覚えている。  こんなことが、それから幾度となく続いた。今思うと、この頃からお母さんはだんだんやつれていき、体調を崩すことも増えていたように思う。    私が、小学校高学年になって一人で留守番をできるくらいになった頃。  お母さんが買い物に行くと言って出かける、なんてことない日常の一場面。しかし、その日はいつもと少し違った。  お母さんは玄関の扉に手を掛けようとして、ふと、こちらを振り返った。 「……ねえ、大丈夫? 」  そう言って。 「え? うん 」  でも、私はその言葉を―― 「そっか。それなら――」     
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