1/10
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/158ページ

「大丈夫ですか?」  新入社員歓迎会の席。後輩から酒を注がれるままにちゃんぽんを繰り返したせいか、不覚にも足に来てしまった。 「カンパーイ!」 「「カンパーイ」」  開始の合図に誰もがグラスを高々と掲げると、堅苦しい静寂を解放するべく一口含む。  地元ホテルの宴会場にセッティングされた円卓テーブルを七人前後で囲み、ターンテーブルに置かれた料理を一人ずつ皿に盛っていく。先付けとして一人盛りで用意されていた三貫の寿司。ビールを飲みながら料理が前に止まるのを待っているのだが、向かい側に座った仲良し組が料理を指差し喋ることに夢中で、未だ回転する仕事に就けそうにない。口を動かす前にターンテーブルを動かして欲しいものだと、寿司を頬張った。 「思ったより、イケる……」  鮪、烏賊、海老。それに瓶ビールを一本飲み干し、ようやくターンテーブルが回転した。こんなことなら相手を気にせず先に料理を盛ってから目前に戻しておけば良かったと、冷めて固くなった魚料理をビールで流し込む。 「先輩!」  手酌で二本目が空に等しくなりかけていると、背後から呼ばれ振り返った。可愛い女の子が二人、笑顔で立っていた。 「あぁ。はい、はい」  一昨年に入社した子が今年入社の子と、瓶ビールを連れてきた。挨拶回りにお酌をして歩くとは感心と、グラスを一気に傾けた。  私は入社後に一、二度の経験を経て、お役御免とばかりに今の立場になったわけではなく、酒癖の悪い上司から「お前から注がれても美味くない」と、はっきり告げた後に延々と悪罵を浴びせた。社会人に一歩踏み出したばかりの頃で、とても純情だった私は帰宅してから一人で泣いた。否、トイレに席を立っては個室で涙していた。  以前から思っていたから発言してしまったのか、酒の力を借りて気が大きくなったのか、酔っ払いの戯言にしても限度はないのだろうかと、悔し泣きした。  あれ以来、私は手酌だ。思い出しただけでも腹が立つ。けれど、誰にもお酌をして歩かなくなったためか、こうしてお酌される側に落ち着いたわけなのだが、面白がって何周もやってくる後輩は何なのだろう。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!