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大家である彼女の強硬な侵入を許可したのは俺だが、強制的に部屋を物色しても良い理由にも、人を虚仮にするような言葉を発しても良い理由にはならない。
そして、冷蔵庫から勝手にビールを飲むなど、言語道断である。
最後の一本だったそれはパソコンを眺めながら飲もうと思っていたのに、すべて台無しだ。
「乾き物とか、おつまみはないんですか?」
「ない。大家さんに食わせるようなものは、この部屋にはない。家に帰ってくれ!」
酒が入って気が大きくなっているのか、俺が知らないだけで元々からなのか、彼女はひどくふてぶてしい態度だった。
ソファーに片足をあげ、黒かったテレビ画面はいつの間にか賑やかに笑い、大声でゲラゲラと下品に笑い出した。
違う。俺の知っている彼女ではない。
「出て行ってくれ!」
「つれないなぁー。少しくらい一緒にいてもいいじゃない。
田淵さんは私の存在を無視して、ご自由にどうぞ」
ソファーに横たわると、さらに大声で笑った。
「ふざけるな!」
彼女の腕を掴み、俺は力任せに引き寄せる。
「なっ!」
「なに? 非力くん」
不気味な笑みを浮かべる彼女は、地球外生命体が正解だったようだ。
細いはずの腕が丸太のような力強さと、石のような硬さを保持し、微動だにしない。
女性に負けるほど非力ではないし、彼女と違って素面の俺が力を出し惜しみしているなどもなかった。
「理解しなくていいって、言ったでしょう?」
自ら体を起こし立ち上がると、飲み干した空き缶を握りつぶした。
「そうだ。今度から、握りつぶしてからぺちゃんこにしてみたら?」
ウエストの細くなった缶の上下を両手の平で挟み、一気に潰した。
「あ。でも、これ。中身がちょっとでも残っていると、大変」
手の間からぽたぽたと雫がこぼれると、彼女は愉快そうに言った。
「今日のこと誰かに告げ口したら、コレと一緒にするからね」
缶を床に落とすと、鈍い音と雫が跳ねる。二の句が継げないでいると、彼女はあくびをした。
「田淵さんに渡したかったものもあげたし、眠くなってきたから帰るわ」
呆然としていると、彼女は朗らかに微笑んだ。
「おやすみなさい」
玄関から施錠音が聞こえ、俺は急いで恐怖の元凶が侵入してこないようドアチェーンをかけた。
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