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3
あれはまだ、俺が別マンションに住んでいたときだった。
世間は皆既月食で盛り上がり、今か、今かと明るい空を仰いでいた。
取引先に謝罪し暗澹とした気持ちで帰宅していたため、地面しか視界に映らなかった。
顔を上げることが億劫だったのもあるが、謝罪した人物の頭部が綺麗な無毛で、嫌なことを思い出しそうでもあった。
「はぁ……」
これは何度目のため息だろう。
「はあ……」
考える間もなく、ため息がこぼれる。
社会人四年目。
緩いミスは何度かあったが、大きなミスは今回が初めてだった。
「君の小さなミスには散々目を瞑ってきたつもりだったが、まさかここまであからさまな大きなミスをしてくれるとは、我々を馬鹿にしている他ないと思ったよ」
怒鳴ることも忘れるほど冷静沈着な相手方の言葉遣いに、頭を下げたまま萎縮するしかなかった。
「君にはがっかりだ……本当に残念だよ」
呆れ果てたなれに叱責されず、口を挟む間もなく、威厳を放ちながら退室されると、落胆と同時に不要の烙印を押された。
取引継続を願うことも、言い訳することも叶わなかった。
積み重ねてきたものは功績ではなく、罪過しかなかったということなのだろう。
否、信頼を裏切ってきた俺には、当然の報いだったのかもしれない。
その後は、上司が赴き担当を外され、俺が逆立ちしても勝てない同僚に仕事が引き継がれ、事なきを得た。
もし、上司の意見も耳に貸して貰えなければ、俺は今頃、首が飛んでいた。
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