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「あぁ。手酌だからか……」  グラスの気泡を繁々と眺めた。 「何本目だろう?」  卓上に空瓶が三本。二本目以降、お酌し隊がわんさかとやってきた。少量を舐めつつ料理を食そうと思っていたのだが、宅飲みでもないというのに完全に箍が外れている。意識はしっかりとしているし、呂律も回っているし、わりと通常運転のようだ。 「お疲れさまです」  爽やかな笑顔が、お酌し隊でやってきた。 「あら。イケメンね」  口からついて出た言葉に、私は通常運転ではないことを悟った。 「ごめんなさい。私ってば」 「ははは。ありがとうございます」  瓶ビールを傾けられて、私はグイッと飲み干してからグラスを差し出した。 「いつも助けていただき、感謝しています」 「……貴方、どちら様?」  見覚えがあるような、ないような。酔っているせいか、脳内に霧が発生して記憶を上手く手繰りよせられない。否、ここまで顔が良ければ覚えているはずだが、まったく記憶にないのだ。然程、携わっていないのではないかと思った。 「四月からお世話になっている、田淵健吾です。総務部、森本千代係長には無理難題を華麗に解決していただけているので、頭が上がりません」     
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