1 カーテンのすき間と月明かり

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「私も仕事ではないんですけど、昨日遅くまで飲んでいたんです。 ダメですよね。朝が早い仕事をしているのに夜ふかしなんて…… 危うく職務怠慢になるところでした」  微笑まれて俯いてしまった。  知っている。朝帰りのことはブログ記事を閲覧して知っている。 「久しぶりにお酒飲んだら、深酒しちゃいまして……」  今朝ブログで呟いていたナスビとは、大家である神影美月のハンドルネームだ。 ネット巡回が趣味の俺は、偶然目についた近所の写真。否、彼女の庭に咲いた花と彼女の長く伸びた影と、撮影後気にしなかったのか中央に見覚えのあるマンションが目につきピンときた。 間違いなく彼女のブログだと。  過去数年の記載を貪るように閲覧し、一人で興奮した。近所で通りすがりに見ていただけだった彼女の秘密を、勝手に覗き見るような気分になれた。 「あっ! お酒臭かったら、すみません」  パッと口元を押さえると、紅潮した。  ブログの文章と写真撮影の仕方もさることながら、外見がかなり好みだったのも引っ越しを後押ししていた。 「そうだ。後で家に来てくれませんか?」 「え!」  口臭に配慮して部屋に戻ろうと背中を向けると、彼女に声をかけられ俺は聞いたことのないような高音と共に勢い良く振り返った。 「差し上げたいものがあります」 「あ、あぁ……」  期待していなかった態度とは裏腹に、声は嘘をつけなかった。 「掃除すぐ終わらせるので、十分後に足を運んでください」  朗らかな笑みに見送られ、俺は返事もろくにせず部屋に戻った。 というより、 強制的に来いといわれたが、そのまま家に招き入れて待たせてくれていれば話は早かったし、 二度手間にならなかったと今さらながら思った。 「そうだ」  ふと、脳裏をよぎった。昔、クローゼットに隠した取っておきを思い出したのだ。  段ボールの封を乱雑にはぎ、見つけられても中身が見えないよう工夫していた袋を確かめていく。 「あった!」  一人でにやりとした。  俺は、彼女を手にできると確信した。
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