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「わざわざごめんね。お茶の用意するから上がって、上がって」
中央玄関から廊下を左に行けば部屋に繋がり、
右に曲がると左手に風呂とトイレの扉が並び、
右手の扉を開けるとリビングと対面キッチンが顔を覗かせた。
一人暮らしにはやや広い間取りで、以前は家族と住んでいたのだろうか。
「あら? ごめんなさい。お茶菓子の買い置きがなくなっていたみたい」
「えっ?」
コースターのアイスコーヒーに市販のガムシロップを注いでいると、彼女は手のひらをあわせた。
お陰で手がベタベタだ。
「すぐ買ってくるから飲んで待っていて」
外出しようとする彼女の背中に叫んだ。
「と、トイレ借りてもいいですか?」
「どうぞぉ」
振り返りもせずにトイレの扉を開放すると、玄関の開閉音がした。
チャンスだと思った。
キッチンで素早く手を洗い、カバンを漁った。
興味本位で入手した盗聴器と、電池不要の盗撮用カメラを手に、
逸る心を抑えながらリビングとトイレに設置した。
ついでに便器を汚したい願望も芽生えたが、盗撮最初の記録映像が俺になるのが嫌で止めた。
一人残されたリビングでは落ち着かなかった。
自分で設置したとはいえ、ちらちら、ちらちらとそっらに目がいってしまう。
貧乏揺すりか、小心者のせいなのか、動悸と震えが止まらない。
早く帰って映り具合を確認したい。
彼女の日常を一刻も早く覗き見したいと妄想が膨らむ中、ふと我に返る。
「ちゃんとパソコンに送信されてんのかな……?」
一度も使用せずぶっつけ本番だったため、不安にかられた。
「帰りたい……」
体は正直だ。正真正銘の貧乏揺すりが止まらない。震える手でグラスを持ち、一気に飲み干す。
「ふぅ……」
一旦、冷静になろう。冷静になれば彼女の帰りを大人しく待てるはずだ。
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