1 カーテンのすき間と月明かり

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 カチカチ、カチカチと掛け時計の音だけが耳に届く。 暇と思えば睡魔が顔を覗かせソファーに体を預けたが、家主の留守中に寝るわけにもいかず、一時停止にしていたスマホのゲームを再開させた。  ぼんやりと画面を眺めながら勇者を戦わせ、敵の雑魚キャラを倒していった。 魔王を討伐する王道のゲームだが、オンラインでもプレイできるのが好きで始めた。 どこの誰かも知らない人と協力し、チャットで僅かばかりの会話をするのも好きだった。 他愛のない会社や学校の愚痴をこぼしたり、 誰にも告白できない悩みを打ち明けてくれたり、 俺のように悶々としたまま趣味を趣味と告げられない人と簡単に盛り上がれたりと、 チャットはリアルであってリアルではないため、些か気分が和らぐ大切な時間を過ごさせてくれる場所になっていた。  滞りなく敵を倒し入手した材料で武器を強化していると、先ほども聞いた玄関の開閉音が耳に届いた。 「遅くなって、ごめんなさい。 好きなもの聞かずに買い物にでちゃったから、選ぶのに時間がかかってしまって。好きなものあるといいんだけど」  彼女は呟きながらがさごそと買い物袋を漁ると駄菓子や団子、立派な箱に詰められた菓子折までと、幅広く取りそろえていた。  しかし、幾つかテーブルに並べられた中に総菜が紛れ込んでいた。 「これ、美味いですよね」 「田淵さんも好きなの? まだ食事を摂ってないんだけど、良かったら一緒に朝飯どうですか?」  意表を突いた申し出に、 サーモンとタマネギのマリネのパックをテーブルに落としてしまった。 幸い中身は飛び出さなかったが、レモンスライスが透明なフタに張り付いた。 「す、すみません!」 「大丈夫、大丈夫。味は変わらないから」  微塵も下心を抱かれていたとは思っていない朗らかな笑みに、萎縮した。 「パンとご飯。どっちが良い?」  キッチンに立つと、食パンの袋と茶碗を片手にいった。 「ど、どちらでもあわせます」 「そう?」 「はい」  特に好き嫌いや拘りはない。目前に出されたものを咀嚼し、胃に流し込むだけだ。さっぱりでも、こってりでも、美味ければ自然と美味いと言葉が出る。 見た目も大事だが、味が一番重要だ。
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