1 カーテンのすき間と月明かり

6/6
前へ
/158ページ
次へ
「簡単だけど、どうぞ」 「いただきます」  トーストされた食パンにバターを薄くのばし、サーモンのマリネを挟んだ。 俺好みのコーヒーでパンの耳を流し、お湯で温めたポタージュをかき混ぜる。 「美味かったです。ごちそうさまでした」 「お粗末様でした」  腹が満たされ、ふと時間が気になった。 「と、時計どこですか?」 「そこの上よ」  指差された場所に視線を移すと、遅刻まで二十分弱に迫っていた。 「す、すみません。遅刻しそうなので、後日にお話伺います!」 「あっ!」  なにか言いたげではあったが、背中で声を拾ったため、聞こえないふりをして部屋に戻って出勤準備をした。  会社まで十分少々。 走れば間に合わないことはない。大事な仕事が入っていたため、遅刻は御法度。 仕事を落とさないために、俺は人並みをかき分け全力疾走した。  楽しみだったはずの仕掛けは、念頭から消失した。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加