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「……ん?」
俺の部屋はオートロックなのだが、エントランスからのチャイム音と玄関からのチャイム音は別にしている。
耳に届いたのはセキュリティーを一つ飛ばした玄関からのチャイム音だったため、違和感を抱いた。
パソコンの画面を暗くし、腰を上げる。
「ど、泥棒か?」
正々堂々とチャイムを押して泥棒に訪れるなどないかと思いつつ、手に傘を持ちドアスコープを覗き込んだ。
「っ!」
咄嗟に口を塞ぎ、声を殺した。
目が合った。間違いなく誰かいる。
交流のない隣人が尋ねてきたとしても、ドアスコープを覗き見るような変人はいないだろう。
痺れを切らしたのか再度チャイム音が鬼のように響くと、扉をノックされた。
「田淵さぁーん。ご在宅ですよねぇ? 田淵さぁーん!」
ドンドン、ドンドンと激しいノック音とは裏腹に、俺を呼ぶ優しい声に間違いなく彼女だと気づく。
「あ! はい! 開けます、開けます」
狂気の沙汰ではない勢いで叩き続ける彼女に、扉を開放せざるをえない状況だった。
「こんにちわ、田淵さん。お邪魔しますね」
「え? ちょ、ちょっと!」
制止するより先に靴を脱ぎ捨てると、荷物を手にズカズカと室内に踏みいっていく。
良かった。パソコンの電源を落として置いて、本当に良かった。
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