わたしでいいんですか?

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 入学してすぐの部活説明会で一番場を沸かせていたのが、文芸部の菊池先輩だった。文武両道、成績優秀、そしておまけに眉目秀麗。運動部や生徒会が獲得に必死になっていたけれども、本人は自分の意志を貫いて文芸部一本でやっているとは後から聞いた話。  入部希望者は特に女の子が多かった。たくさんの希望者といっしょに文芸部の門をくぐったわたしを待っていたのは、読書感想文の提出だった。四百字詰め原稿用紙に五枚以上。ここでふるいにかけられたようにいなくなってしまった子が大半だった。  どうしてこんな入部試験があるのかと言えば、それを読んでどんな文芸活動に向いているのかを見るためで、毎年やっているらしかった。この部は全国高等学校文芸コンクールにも毎年参加していて、先輩方の中には入賞経験者もいるそう。それに演劇部や放送部、漫画研究会ともコラボして脚本を手直ししたり書き下ろしたりしているため、わたしたち一年生にも課題がたくさん出された。そんなわけで、四月も終わる頃には多かった女の子たちもずいぶん減って、十二人前後になっていた。  そんな忙しい毎日を送りながらわたしは、ううん、わたしも菊池先輩に惹かれていった。ついつい、目で追ってしまう、声を耳が拾ってしまう。段々と想いが深まっていく自分に気づいていた。  先輩の少し長めの黒髪とか、細くて筋ばった指とか、すれ違うと薫る、シトラスの香りとか。何でもないことに心臓がいちいち跳ねた。  ある日、全員が集められた。何が始まるのかとドキドキしていると、部長が突然、こう切り出した。 「二年生と一年生でペアを作って、これから一年間、一緒に活動してもらいます」  みんながどよめいた。  わたしも思わずドキッとした。  わたしの相手は誰だろう。  もしかして、ううん、そんなことは……。  それでもやっぱり、期待してしまう。そっと菊池先輩を見たら、目が合った気がして咄嗟に顔を背けてしまった。 「……で、月坂さんは菊池くんと。それから……」 「えっ」 「なにか問題でも?」 「いえ、なんでもありません」  部長の言葉がすぐには信じられなかった。今、なんて? 菊池先輩と、わたしが、ペア……? 「月坂、よろしく」 「は、はい! よ、よろしく、お願いします」  みんなの視線と菊池先輩のウィンクに、わたしはうつむいて赤くなった顔を隠した。
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