わたしでいいんですか?

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 違和感に気がついたのは、体育の時間だった。わたしがバレーボールなどの後片付けをしていざ戻ろうと靴箱に戻ってくると、わたしの上靴が入れた場所になかった。  バラバラと解散していく女の子たち。いつまでも動こうとしないわたしに、声をかけてくれた子が一緒に探してくれた。わたしの靴は隅っこのゴミ箱の裏側にぎゅうぎゅうに詰められていた。 「大丈夫?」 「うん、平気……」  本当は全然平気じゃなかったけれど、心配をかけたくなくて笑顔を作った。「こんな嫌がらせ、ひどいね」と、同情してくれたその子の言葉にハッとする。  これはイタズラなんかじゃない、嫌がらせなんだ。  そう思ったとき、菊池先輩の顔が浮かんだ。  その予感は当たっていた。嫌がらせはそれっきりにはならず、わたしの周りで些細なトラブルが続いた。幸いというか、物が壊されたり怪我をさせられたりということはなかったけれど、地味に精神が削られていく。物を隠されて泣きそうになりながら捜し歩くのが、こんなに悔しくて辛いなんて思わなかった。ノートにデカデカと書かれた、ものさしで描いたような作為的な文字。 『退部しろ!』  それが逆に、わたしに踏みとどまる力をくれた。  こんな卑怯なことをする人たちに負けられない、負けたくない!  こういうのを何て言えばいいのかなぁ。とにかくわたしは急にやる気がわいてきて、あっという間に原稿を書き上げてしまった。先生への秘めた気持ちを友達に言いふらされ、いじめの標的になってしまう主人公と、今の自分の気持ちを重ね合わせて書き殴った。相手役の先生はいじめを知ってそっと陰ながら主人公を手助けしたり、主人公に優しい言葉をかけてくれたりするの。 『お前には俺がついてる。大丈夫』  これは、わたしが先輩に言ってほしい言葉。菊池先輩がわたしを真っ直ぐに見つめながら、あの声で囁いてくれたら……。あのときみたいに、わたしの肩に手を置いて、「大丈夫だよ」って言ってくれたら、わたし、絶対に誰にも負けない自信がある。  寝不足の目をこすりながら、わたしは朝一番に二年生の教室へ行き、菊池先輩にノートを手渡した。本当なら、文章をパソコンに打ち込んで印刷してから持っていくべきだったのかもしれない。でも、その時間すら惜しかった。今すぐに読んでもらいたかった。  先輩は驚いた顔をして、それでも笑顔で頷いてくれた。
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