九章

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今までの辰巳の態度を思い出す。 私が香椎出版の副社長の娘だって知った時、明らかにショックを受けていた。 香椎に井深紺(いぶかこん)の件を持ち出された時、辰巳を嫌いにはならないと言ったら照れた顔をして喜んだ。 戸倉(とくら)先生にセクハラされたのを助けてくれた時、迷いもせずに会社の名前を出した。おそらく、ああいう親の威光を傘に着るやり方は嫌いなはずなのに。 私が仲良いと思われると困ると言った時、激怒した。 今まで言わなかったのは、私が辰巳を選べない(・・・)からだ。 ……どんな気持ちで、今まで私と接していたんだろう。誇りに思っている自分のお父さんの会社を頭から否定されて、それでも私の側に居たのは何故だろう? 「ねぇ、室住さんは辰巳のこと好きじゃないの?」 私は中井くんの問いかけすら答えることができない。 ……嫌いなわけが、ないのに。
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