一章

3/9
前へ
/232ページ
次へ
お父さんが二階から忙しない足音を鳴らしたと思ったら、もうリビングにお母さんの姿はない。 「まぁまぁ、お待ちしておりました!」 お母さんの、いつもより1オクターブ程高い声が響く。絶賛掃除中だった癖に。仕方なく私は放られた掃除機を押入れに片付けてあげた。 「まだまだ肌寒い日が続きますねぇ」 お父さんののんびりした声と共に、海外ブランドの洒落(しゃれ)た春コートを(まと)った中年男性がリビングに足を踏み入れる。 きついコロンが鼻に刺さり、私の顔が歪んだ。1メートルは距離を置いているんだけど。
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加