一章

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中年は、仕方なくその場に突っ立っている私を見つけにこやかに挨拶する。 「やぁ、アンリちゃん。大きくなったなぁ」 二ヶ月前に会ったじゃない。そんなに変わらないわよ。 「ご無沙汰してます。社長」 私は両手をおへその前で組みうやうやしく一礼する。すると社長はニンマリと微笑んだ。 「やはり君のお嬢さんはいい子に育ってるな。室住(むろずみ)君」 「恐れ入ります」 父は口元を少し緩める。 「うちの息子のお嫁さんに欲しいくらいだよ」 冗談は顔だけにして欲しいのだけど。 「あらあら、勿体ないお話ですわ」 母の愛想笑いに拍車がかかる。そうそう、貴方の息子に私は勿体無い。
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