一章

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「ふう、よいしょっと」 社長はまだ何も言ってないのに勝手にソファにどっかり腰を下ろす。お母さんは顔色一つ変えず社長にお伺いを立てた。 「コーヒーが良いですか? それとも紅茶?」 「じゃあコーヒーをお願いしようかな。砂糖とミルクを一つずつ」 いっそ水道水でも出しとけばいい。もうソファに浸かりきっている彼を横目に私は自室に戻ろうとする。 「どこに行くんだアンリちゃん、せっかくだからお話しようじゃないか」 「いやです」とは言えない。非常に不本意だが私はお父さんの隣に腰を下ろした。 「お母さん、私もコーヒーちょうだい」 お母さんの「もー、しょうがないわね」という声がキッチンから飛んでくる。
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