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カンカンカンカンカンカンカンカンカン…
サイレンの音が響いている。
夕立のザーザー音と混ざり合って夕方の街に響いている。
突然降り出した雨に全身を濡らされた僕はそれも夏の風物詩かと諦めて家に向かって自転車を漕いでいた。
ふと道端の少女が目に止まった。
傘も持たず、雨に打たれ、泣いている。
その手には小さな花束を抱えている。
放っておくのも後ろめたいので声をかけた。
聞けば家が火事だと言う。
今日は姉の誕生日、お小遣いで花束を買いに外に出たのだと言う。
帰ったら家が燃えていたのだと言う。
恐ろしくて、不安で、わけがわからなくて走ってここまで逃げ出してきたのだと言う。
泣き喚きながら言う。
確かに見た。
自転車で走りながら、燃えている家を見た。
消防車が駆けつけ必死の消火活動をしていた。
しかし燃え盛る。消火活動は順調なようには見えなかった。
他人事として見ていた先程の映像が一気に生々しく襲ってくるのがわかった。
お兄ちゃん、あっちからきたの。
わたしのお家、どうなってた。
にげてごめんなさい、ママ、パパ、おねえちゃん、ごめんなさい。
涙か雨か少女の顔がぐちゃぐちゃに濡れている。
君の家は…
この夕立ですっかり火が消えていたよ、
だから
大丈夫。
ほんとう…?
僕の目を真っ直ぐ見つめる。
少女が固く握っていたせいで花はすっかり元気がない。首をもたげて萎れている。
本当だよ。
安心させようと偽りの笑顔で塗り固めた。
何が大丈夫なのか、何が本当なのか。
君の家は今もごうごうと燃えている。
家族の安否はわからない。
いや、この子を探しに来る誰かがいない時点である程度の予測はつく。
誕生日だったのか、この子の、家族の…幸せな1日だったはずなんだ。
この程度の水で火はその勢いを弱めたりはしない。
きっと、より燃え盛って…
カンカンカンカンカンカンカンカンカン…
ザーザー…ザーザー…
夏の夕方、
柔らかな夕立は降り続ける。
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