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そしてようやく、見返りを口にした。
「国親が兵を挙げたときは、山を越え、馬木まで走ってもらいたいのじゃ。馬木の隆家様のお邸はわかろう」
馬木で一番大きな邸だ。貧しい貴族というのはいるのだろうか。
「隆家様は、異国の獰猛な海賊でさえ追い払われた剛の者じゃ。ことがおこれば必ずや助勢してくださるであろう……馬より早いと言う、おぬしの足なら半日とかかるまい」
国親の寝首をかけという要求ではなかったが、それでも返事はしなかった。
老臣も念押しをしてこなかった。
老臣に教える気はないが、二年ほど前まで、誰かが時折、イダテンとおばばの住む家の近くの六地蔵に雑穀やイモなどを供えていた。
それで幾度飢えをしのいだことだろう。
供えた者も鬼の家族が持っていくことは承知していたはずである。
走ってやってもよい。
その人間が、国司の家族であったとでもいうのなら。
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